平和だったアラブ系イスラエル人の村、憎悪犯罪の標的に
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【6月26日 AFP】オリーブグリーン色の日産ジューク(Juke)を買うのに必要な金額を何とか工面して、サファ・オスマンさん(27)は2週間前、車を購入したばかりだった。だが朝、目を覚ますと、車は憎悪に満ちた過激派らに破壊されていた。
もう運転することもできず、修理費用を捻出するめども立っていない。「自分だけでは新しいタイヤを買えない」。エルサレム(Jerusalem)郊外にあるアラブ人の村アブゴッシュ(Abu Ghosh)の自宅前で動けなくなった車を見つめながら、オスマンさんは悲しそうに語った。
18日未明、ユダヤ人過激派とみられる集団が、アブゴッシュ村の車28台のタイヤを切り裂き、周りの壁に人種差別的な中傷の落書きを残していった。この事件に対して、イスラエル国内では幅広い層から非難の声が上がった。
壁には「アラブ人出て行け」「人種差別か、同化か」といったスローガンが描かれていた。「同化」はユダヤ人と非ユダヤ人の混合が進むことに対する批判的な言い回しだ。
「車は銀行ローンで13万4000シェケル(約360万円)で購入した。器物損壊にも保険が適用されるのかどうか、確認しないといけない」とオスマンさんはAFPの取材に語った。「ショックでした。こんなことをしようとする敵は、私にはいません。車の件で仕事を1日休まなければならなかった」
■広がる「値札」事件
アブゴッシュ村は、イスラエルの多数派住民であるユダヤ人と極めて良好な関係を築いていることで知られており、村のレストランには大勢のイスラエル人が詰め掛ける。
オスマンさんは、東エルサレムに暮らす同じ女性の友人たちが前の週、バスの中でユダヤ人過激派に襲われて、スカーフをはぎ取られた話を聞いていた。
だが今になるまで、そのような出来事を自分が経験したことは一度もなかった。
アラブ人が多数を占めるアブゴッシュ村は、エルサレムのすぐ西の丘陵にある。年2回、地元の古い教会で開催されるクラシック音楽祭で名高い。ヨルダン川西岸(West Bank)や東エルサレムで発生している、いわゆる「値札」事件も、同村ではこれまで一度もなかった。
事件は、平和だった村に恐怖を残した。
「子どもたちは父親が職場から帰宅してベルを鳴らしても、ドアを開けようとしない。『値札』の連中がベルを鳴らしているかもしれないと恐れているんです」と、スハド・アブドルラーマンさん(34)は語った。
人種差別問題に取り組む「イスラエル反人種差別連合(Coalition Against Racism in Israel)」のニダル・オスマン(Nidal Othman)氏は、村を襲ったのはヨルダン川西岸のユダヤ人入植者である可能性が高いと語る。
「ヨルダン川西岸の入植者らが結成した『値札』と名乗る秘密組織がある。この組織は東エルサレムで車に放火などをしている」と、オスマン氏はAFPに述べた。 「値札」事件は当初、イスラエル当局が不法入植地の取り壊しを行ったことに対し、パレスチナ人への報復として始まった。その後、人種差別主義者や外国人嫌悪的な特徴を帯びて拡大し、より幅広い現象になっている。
「値札」たちは器物損壊や公共物破壊などを行い、車やモスク、オリーブの木などに放火する。またキリスト教の聖地も標的にし、イスラエル軍の基地内にも侵入した。
最近発表された警察資料によると、2012年には「値札」による襲撃事件が623件あり、200人が逮捕され、123件の起訴があった。今年に入ってからは、襲撃事件が165件、逮捕された容疑者は76人、31件を起訴したという。
警察幹部は、こういった事件はイデオロギーに動機付けられた「民族主義的犯罪」であり、警察にとって「最優先事案」だと述べている。(c)AFP/Majeda EL-BATSH