【1月10日 AFP】恐ろしい集団強姦(ごうかん)事件から3週間あまりが経ったインドの首都ニューデリー(New Delhi)では、女性たちの間で安全に対する不安が以前にも増し、自衛手段を教えるための講座に関心が高まっている。

 ニューデリーが「インドのレイプの都」と呼ばれるようになってから久しい。2011年に起きた強姦事件の件数は、商業の中心地ムンバイ(Mumbai)の2倍をも上回る。多くの女性たちは夜間に移動する際や、公共交通機関を利用する際に特別の注意を払っている。

 しかし昨年12月16日に23歳の女子大学生が、移動するバスの車内で男たちの集団に繰り返し強姦され、鉄の棒で暴行もされた事件によって、不安は今までにないレベルに達した。

 市内南部にあるトレーニング施設「不屈のサバイバル・サイエンス(Invictus Survival Sciences)」で自衛手段を教えているトレーナーのアヌージュ・シャルマさんは、受講を希望する女性たちからの電話が事件後、引きも切らないという。「このひどい事件をきっかけにみんな、(身の安全)を二の次にはしておけないと考え、何よりも自衛を重視するようになっている」

 シャルマさんは、襲撃者につかまれた場合に体をねじって逃れる方法や、相手の腹部にパンチや蹴りを入れ身動きできなくさせる方法など、自衛手段の基本を伝授している。

 12月の被害者と同じ23歳の女子大生の受講者は「女性たちは、自分の身を自分で守らなければならないことを昔から知っていたと思いますが、あの事件以降、私くらいの年の女性の多くがそれに真剣に取り組むようになりました」と語る。

■護身グッズの売り上げ、銃所持ライセンスの申請が増加

 人口1600万のニューデリー各地の小売店では、護身用の催涙スプレーや防犯ブザーの売り上げが軒並み伸びているという。また若い女性の多くが自分の身の安全について、家族や親せきが前よりも心配するようになったと述べている。ある新聞は今週、女性たちが銃の所持ライセンスを申請し始めていると報じた。

 市内の店で働く22歳のアシマ・サガルさんは、夜間は「比較的安全な」女性専用車両がある地下鉄に乗って通勤しているが、母親がほとんど取りつかれたように心配しているという。「職場を出るのは夜の9時ごろですが、あの事件の後、10分でも遅れると私が無事かどうか確認する電話が母から来るんです」

 2005年に夜間勤務していた女性が強姦、殺害された事件で震撼した人材派遣業界では、夜勤シフトで働く女性のために特別な安全対策をとっている。ニューデリーにある人材派遣会社の幹部アヌラーグ・マツール氏は「あの事件の後、夜勤の移動用車両には少なくとも1人の警備員を配置している」という。

■働く女性たちの生産性が40%低下

 インド商工会議所連合会(ASSOCHAM)が4日に発表した調査によると、コールセンターやIT企業で働く女性たちの生産性が今回の事件後、40%低下している。女性たちの多くが勤務時間を減らしたからで、中には辞めてしまった例もある。

 不安が根を下ろす中、多くの場合、女性は家の中にいることが増えており、運動家たちは女性への保護を提供しない国を非難する声をあげている。ニューデリーの社会研究センターのランジャナ・クマリさんは「どの女性も自分の身の安全に自分で責任を持たされる社会に、なぜ私たちは暮らさなければならないのでしょう?私たちが真に必要とするのは、私たちを守る制度です」と訴える。

 こうした憤りが政府に対する、時に暴力的な抗議行動となってこの2週間半ほどインド全土で続いている。

 一方で、自衛手段が最も必要とされることのある場面は、家族や隣人に対してだという統計がある。強姦事件の容疑者の95%以上が、犠牲者の顔見知りなのだ。

 インド当局によると、2011年の1年間にインドで起きた強姦事件は2万4206件とされているが、これは実際を大きく下回る数字だと考えられている。また、強姦事件全体のうち8.6%がムンバイで、17%がニューデリーで発生している。(c)AFP/Abhaya Srivastava