【6月2日 AFP】いつも死と隣り合わせのメキシコの麻薬戦争において、女性たちが急速に台頭し、密売組織内の要職を担い始めている――同国シナロア州自治大学(Autonomous University of the State of Sinaloa)の研究者、アルトゥーロ・サンタマリア(Arturo Santamaria)氏は、麻薬密売組織における女性の台頭を追った新著『Female Bosses of Narco-Traffic(麻薬密売組織の女ボスたち)』でそう述べる。

 2006年にメキシコ政府が組織犯罪の取り締まりを強化して以降、同国では5万人以上がいわゆる麻薬戦争で死亡。密売の撲滅を目的とした軍との戦いをものともせず、密売組織は互いに抗争を続けている。

 サンタマリア氏によると、麻薬戦争におけるこれまでの死者の大半は組織に所属する男性で、それを背景に、若い男性や女性たちが麻薬密売組織内の要職を担うようになったという。  北西部シナロア(Sinaloa)州は、ケシとマリファナの主要な栽培地域で、有力麻薬組織のボスを多く輩出している土地でもある。ここの若い女性たちは、麻薬密売ビジネスが身近にある状態で育つことになる。

 女性たちはまず、繊細な扱いが必要とされるケシから汁を搾りとる作業に従事するためにリクルートされ、以降、麻薬の輸送や資金洗浄、そして政府や警察の幹部らを誘惑して買収するいわゆる「麻薬密売外交」に携わるようになるとサンタマリア氏は説明する。「その後、作戦そのものに携わるようになる」

 メキシコの司法当局によれば、前年10月までに逮捕された麻薬組織の女性リーダーは46人。サンタマリア氏によると、女性らは男性よりも用心深く、また殺傷能力のある武器の取り扱いについてもより慎重だという。同氏はこれについて女性の場合、子どものいる母親であることが理由かもしれないと推測する一方で、若い女性が男性と同様に相手を傷つけることにためらいがない点についても指摘した。

 同国西部の有力麻薬密売組織セタス(Zetas)は、他の密売組織よりも積極的に女性を勧誘しているという。シナロア州の密売組織はファミリーにこだわりを持つが、セタスはメキシコ全土から積極的に構成員を集めている。

 シナロア州の政治家で実業家のマヌエル・クルーチェ(Manuel Clouthier)氏は「息子や夫に『麻薬ビジネスから足を洗いなさい、手を出しちゃ駄目だ』と諭すのは母親たちだったはずだ。しかし、もしも母親たちがすでに手を染めているのなら、息子に『関わってはいけない』とは言わないだろう」と語った。(c)AFP/Pablo Perez