【5月18日 AFP】殺人犯と容姿が酷似し、ファーストネームが同じで、犯行時刻に現場近くにいた――それだけの理由でカルロス・デルーナ(Carlos DeLuna)さんは犯人と間違われ、1989年に27歳で死刑に処されてしまった。こんな米テキサス(Texas)州の冤罪(えんざい)事件の報告書を、米コロンビア大学法科大学院(Columbia School of Law)のジェームス・リーブマン(James Liebman)教授と5人の学生らがまとめ、15日に発表した。

 5年にわたる調査の結果、リーブマン教授らは冤罪の原因について「捜査が不十分だった」と結論付け、同事件を「法制度の落ち度を象徴するケース」と評している。

 780ページに及ぶ報告書によれば、調査では捜査上の過失や証拠の見落としなどが大量に見つかった。デルーナさんが無実だというだけでなく、真犯人の手がかりもあったにも関わらず、たった1人の目撃証言によってデルーナさんは殺人犯と断定され、死刑が執行されたと報告書は指摘している。

■「全てが悪い方向に進んだ」

  事件当夜 「Los Tocayos Carlos: Anatomy of a Wrongful Execution(2人のカルロス:不当な処刑の構造)」と題された報告書では、1983年2月にテキサス州南部の海沿いの町コーパス・クリスティ(Corpus Christi)のガソリンスタンドで起きた殺人事件を詳細に精査している。

 ナイフで刺されて殺されたのはこのガソリンスタンドの従業員で1児の母だったワンダ・ロペス(Wanda Lopez)さんで、事件発生当夜、飛び出しナイフを持った人物がいると警察に2度通報し助けを求めていた。 「全てが悪い方向に進んだ」とリーブマン教授は指摘する。「警察は彼女(ロペスさん)を救うことができた(のにそうしなかった)。体裁を整えるため、『犯人をただちに逮捕した』と発表したのだ」

 デルーナさんが逮捕されたのは、事件発生から40分後のことだった。たった1人の目撃者は、ヒスパニック系の男が現場から走り去るのを見たと証言していた。この証言によれば、犯人は灰色のフランネルシャツを着て口ひげを蓄えていたという。しかし逮捕時のデルーナさんはひげをそったばかりで、白のドレスシャツを着ていた。その上、証言では犯人は北の方角へ逃走したはずなのに、デルーナさんがその時いた場所は現場の東側だった。

 こうした証言との食い違いにも関わらず逮捕されたデルーナさんは当時、「わたしではない、誰の犯行かも知っている」と述べ、カルロス・エルナンデス(Carlos Hernandez)という男がガソリンスタンドに入っていくのを目撃したと訴えていた。また、逮捕時に逃走を図った理由については、仮出所中の身で飲酒していたためと説明した。

 デルーナさんとエルナンデス容疑者の容姿は「親族でさえ見間違えるほど」よく似ていたという。

■2人目のカルロス、「存在しない」と一蹴

 エルナンデス容疑者は当時、ナイフを扱う暴力事件で知られていた。ロペスさん殺害事件の後に別の女性を殺害した容疑で逮捕されたが、このとき使われた凶器もロペスさん殺害事件と同じ飛び出しナイフだった。

 しかしデルーナさんの公判の主任検事は、「カルロス・エルナンデス」はデルーナさんの「幻想」以外の何者でもないと陪審団に語り、デルーナさん側の弁護人でさえも「カルロス・エルナンデスは実在しないかもしれない」と弁論したという。

 リーブマン教授によると1986年、デルーナさんの公判の記事に地元紙がエルナンデス容疑者の写真を掲載したが、裁判は短期間で終了し、デルーナさんの死刑は1989年に執行された。

 一方、別の事件で実刑判決を受けたエルナンデス容疑者は服役中に肝硬変のため死亡したが、リーブマン教授によると存命中、ロペスさん殺害は自分の犯行だと一貫して認めていたという。

 リーブマン教授は報告書に添えて発表した声明で「残念なことに、法制度の落ち度がデルーナさんを不当に有罪とし、殺してしまった。欠陥のある目撃証言、いいかげんな弁護人、検察の職権乱用――これらは今日においても、多くの人間に冤罪で死刑を宣告し続けている」と述べている。(c)AFP/Chantal Valery