【3月5日 AFP】米ユダヤ系の男性が、ナチスに没収された父親のポスターコレクションのうちの1点、マレーネ・ディートリッヒ(Marlene Dietrich)の映画ポスター返却を求めて、コレクションを所蔵するドイツの博物館に訴訟を起こした。独日刊紙ウェルト(Die Welt)が4日伝えた。
 
 訴訟を起こしたのは、米国在住の元航空パイロットのPeter Sachsさん(70)。第二次世界大戦中にナチスによって没収された、ユダヤ系ドイツ人の父親Hans Sachsさんのポスター・コレクション4000点のうち、1枚のみの返却をドイツ歴史博物館(German Historical Museum)に求めている。その1点とは、ディートリッヒ主演の映画『ブロンド・ヴィナス(Blonde Venus)』(1932年)のポスターだ。

 Peterさんの弁護士によれば、4000点すべての返却を求めるには計3-4万ユーロ(約470-630万円)の訴訟費用が必要だが、Sachsさんにはそれだけの経済的余裕がないため、今回は1点のみの返却要求に留めている。しかし最終的にはすべての返却を求め、父親のHansさんに敬意を表して展示してくれる別の博物館に移す予定だという。

 父親のHansさんは、20世紀初頭の著名なポスター収集家で、コマーシャルアートの発展に寄与したと言われている。1938年に強制収容所に送られ数週間で解放されたが、その後ロンドン(London)、そしてニューヨーク(New York)へと移住し、1974年に亡くなった。Hansさんは1960年代中頃、収集家の友人から、自分のコレクションの一部がドイツ歴史博物館の地下室に眠っていると聞かされたが、当時博物館は鉄のカーテンの向こう側だった。

 博物館側は、Hansさんが失ったコレクションの損害賠償金として現在の50万ユーロ(約7900万円)以上に相当する22万5000マルクを1961年に受け取っているので、息子のPeterさんに返却を求める権利はないと主張している。

 博物館の広報担当によると、Hansさんは賠償金を受け取った数年後にコレクションの3分の1が現存していることを知ったが、返却を求めるつもりはないことを明らかにしていたという。

 これに対しPeterさんは、「父親があきらめていただけ」と反論。Hansさんは、ナチスの活動に対する歴史的責任を拒否していた当時の東ドイツにコレクションの返却を求めることは不可能だと考え、何もしなかったのだと主張している。(c)AFP