【1月24日 AFP】朝鮮戦争(1950-53年)から数十年の沈黙を経て、韓国でようやく自国史の暗い歴史が「真実・和解のための過去の歴史整理委員会」によって明らかにされつつある。共産主義者とみなされた数万人が自国民によって処刑された事実である。

 独立調査機関「真実和解委員会(Truth and Reconciliation Commission)」は、韓国全土約160か所の朝鮮戦争中の大量虐殺現場のうち4か所の調査を2006年7月から行っている。これまでに約400人分にあたる遺体の各部位を発掘したが、これは全犠牲者のほんの一部にすぎない。

 発掘作業により、山腹の塹壕跡に大量の犠牲者の遺骨が山となって、あるいは湿った坑道で泥にまみれ絡み合った状態などで発見されている。見つかった頭蓋骨の後頭部にはどれも背後から撃たれたとみられる銃痕が残っているという。

■「左派」韓国人25万人が自国当局の犠牲に

 朝鮮戦争後の右派軍事独裁政権の時代はもちろん、民主化を遂げた現在でも、過去に向き合うことに韓国の誰もが肯定的なわけではない。2010年4月までを期限とする真実和解委員会の活動に対し、疑問を投げかける保守派メディアもある。しかし、2005年に同委員会を発足させたリベラル派の盧武鉉(ノ・ムヒョン、Roh Moo-Hyun)政権は、国は過去の責任を負わなければならないとしている。

 盧大統領は、韓国南東部の蔚山(Ulsan)で24日行われた同委員会主催の犠牲者追悼式典にビデオメッセージを寄せ、このなかで「韓国民を代表する大統領として、当時の国家機関が行った不法行為について心から謝罪する」と大量虐殺に対する謝罪を述べた。

 同委員会によると、蔚山では1950年の7月から8月にかけて市民870人が裁判を経ずに処刑されたという。人権派弁護士として知られた盧大統領は、同委員会の目的について「真実を発見し、不当な扱いを受けた人たちの怒りを和らげ、彼らの名誉を回復することで真の和解を達成することだ」と語った。

 国立公文書館にあたる韓国国家記録院によると、朝鮮戦争中、殺害、または行方不明となった韓国側市民の数は約75万人にのぼる。 国家人権委員会(National Human Rights Commission)の出資で2005年に行われた調査では、このうち「左派」とみなされた韓国人25万人が、自国の軍隊や警察、民兵などに殺されたと推測される。一方、国家記録院によると、北朝鮮側でも非戦闘員108万人が死亡している。

 こうした犠牲者の実態に関する公式な数字はない。

 歴史家たちは、1950年7月に北朝鮮の侵攻を受けて韓国軍と警察隊が撤退を開始したころから、左派とみなされた非武装民間人の大量虐殺が始まったとみている。
 
■160か所中4か所で、約400体見つかる

 韓国中部の清州(Cheongju)市にある忠北大学(Chungbuk University)の法医学センターには、数百のプラスチック容器の中に犠牲者の頭蓋骨や人骨、骨片などがぎっしり保管されている。

 発掘を担当する法医学専門のパク・ソンジュ(Park Sunjoo)教授は「両手を後ろ縛りにされた犠牲者たちは、塹壕に向かって強制的にひざまずかされた状態で射殺され遺体となって壕の中に倒れ込んだ」と語る。同教授らの専門チームは、乾燥した骨を慎重に調査し記録を取っている。その一部としてパク教授は、清州から数キロの地にある丘の中腹から発見された110人分の遺骸の写真や資料などをAFP取材班に見せた。

 韓国南部の慶山(Kyeongsan)のコバルト鉱山でも、240人分の遺骸が放置されているのが発見された。1回の調査で発見された人骨としては最も多い。「射殺された犠牲者の遺体は、鉱山の深いトンネル内に投げ捨てられた。現在では、放置された骨同士が絡まり合い、1人分ずつに分けることは困難だ」とパク教授はいう。

 これまでに発掘された4か所のうち、残る2か所からも計47体の遺骨が発見されている。

 この4か所だけでも、さらに数千人分の遺骸が埋もれているとみられているが、厳寒の韓国では冬期の発掘作業は中断せざるをえない。真実和解委員会では春以降に作業を再開し、残る遺骨を発見したいとの期待を示す。同委員会の広報を務めるパク・ヤンイル(Park Young-Il)氏は「作業の中断により発掘完了までには数年を要するだろうが、国内にある他の虐殺現場へも調査が拡大することを期待したい」と述べた。

■調査で浮かび上がった目撃者たちの証言

 2007年に同委員会がまとめた報告書には、ある刑務所からコバルト鉱山に人々が連行された様子を語る目撃者談が取り上げられている。「毎日、朝9時から夜7時まで、人々を満載したトラックが次々に鉱山に到着しては45分おきに銃声が鳴り響き続けた」

 イ・テチョン(Lee Tae-Chyun)さん(70)はこの鉱山で行われた虐殺でいとこを失った。現在も時々坑道を訪れては、1人で親族のいとこの遺骸を探しているという。坑道の低い天井に頭をぶつけないよう身をかがめながら、イさんは懐中電灯で人骨の山を照らしてみせた。「当時、付近の住民は皆、この鉱山に連れてこられた者は全員殺されることを知っていたんだ」

 委員会への証言は犠牲者の遺族からだけではない。まれながら殺害に加わった側からももたらされる。

 ある元陸軍軍曹(81)は昨年、共産主義者とされた市民数十人の処刑をソウル東部江原道の横城(Hoengseong)で命じたことを告白した。この現場はまだ発掘調査されていない。しかし、元軍曹はこの証言以降、沈黙を守っており、真実和解委員会も証言者の罪を免責する権限はないと述べている。AFPもこの元軍曹には接触できなかった。

 調査担当の責任者ノ・ヨンスク(Noh Yong-Seok)氏は、こうした調査はすべて人間としての価値観に基づく問題だと語る。「儒教を尊ぶ韓国で、このように長年も遺骨を放置しておくことは正しいことではない。人権を尊重する国にふさわしくないことだ」(c)AFP/Jun Kwanwoo