【10月14日 AFP】イラクの首都バグダッド(Baghdad)で9月に発生した民間軍事会社「ブラックウオーター(Blackwater)」の要員による民間人殺傷事件をはじめとする民間人誤射事件をきっかけに、同国で活動する3万人ともいわれる民間軍事会社要員の経験不足が指摘され、民間軍事会社の活動に対する法規制を求める声が上がっている。

 9月16日に発生したこの事件では、17人の市民が犠牲になった。また、今月9日にはバグダッドの繁華街で、オーストラリアの民間軍事会社「Unity Resources Group」の要員が接近してきたタクシーに向かって発砲、乗っていたイラク人女性2人が死亡した。相次ぐ誤射事件にイラク国民は怒りを募らせている。

 多国籍軍のイラク駐留が長引く中、軍を補完するかのように展開してきた民間軍事会社も、ブラックウオーター事件以来規模を縮小している。これらの企業の要員は十分な適性を備えているのか、そして問題が発生した場合、どのように責任を取らせることができるのかを問う声が高まっている。

■「民間人誤射は経験不足が原因」

 同国で民間軍事会社の業績評価を行う英軍事コンサルタント会社International Corporate ProtectionICPの責任者Will Geddes氏は、「いい加減で、要員の経験の有無など気にも留めない大手企業もある」と言う。

 「問題は経験のない要員が危険な状況に直面した場合だ。頼るべき経験がないのでどうしていいか分からない。だから市民の犠牲者が生じる」と述べ、民間軍事会社要員による誤射事件の原因は要員の経験不足とそれを雇う会社側の責任だとの見方を示した。同氏によると、極度の緊張状態にある時、未熟な要員がたった1人いるだけで最悪の状況に転じる可能性もあるという。

 「もし責任感のある会社なら、面接で資格のない人間を排除するだろうし、まかり間違って採用されたとしても、すぐに解雇するだろう」

■きちんとした規制が必要

 同氏は事件の経緯や動機を示す証拠がないことを理由にブラックウオーター事件についての言及は避けたが、民間軍事会社に対する法的規制の必要性を強調した。「軍事会社に対するイラク政府による行動規則や規約が存在しない。われわれのような民間軍事会社は、いつでも市場がありビジネスになるが、一定水準の規制が必要だ」

■現行の規則で十分

 一方、武器の使用に関しては厳しい規則を守っており、法律を変える必要はないとの声もある。

 イラクで最大規模の活動を展開する民間軍事会社の1つ、英国の「ArmorGroup」のPatrick Toyne Sewell氏は、「われわれの要員は、危機的状況において効果的な対応を取れるだけの広範な実戦経験を持っている」と断言する。

 一方でSewell氏は、同社のイラク要員にとって最高月収1万ドル(約120万円)という高額報酬が志望動機の1つとなっていることを認めつつ、「大部分は軍事訓練の経験を生かしイラク再建に向け力になりたいと考えている」と主張する。そして「業界全体がそうだとはいえないが、われわれは高い実務経験や倫理的判断力、成熟度および専門技術を有した人材に事欠かない」という。

 Sewell氏は、現行の規制で十分だという。「必要なのは規制を増やすことではなく、すでにある規則を浸透させることだ」

 イラク政府は民間軍事会社に対する追加的規制案を検討している。一方、ブラックウオーター事件については米イラク合同の捜査チームや、連邦捜査局(FBI)など複数の組織による捜査が進められている。(c)AFP/Andrew Gully