【8月21日 AFP】「腎臓を1つ100万ルピー(約190万円)で売らないか」。Tariqと名乗る男から電話でそう持ち掛けられたとき、Usman Ranaさん(24)は運がまわってきたと考えた。

 警察によれば、Ranaさんは仕事を探すため、2月にラホール(Lahore)から首都イスラマバード(Islamabad)に出てきた直後にTariqから誘いを受けた。腎臓の買い手は英国から来た患者だと告げられ、パキスタンでは大金にあたる10万ルピー(約19万円)の前金を受け取った後、イスラマバード郊外の民間病院で手術を受けた。

 手術後しばらくして、残った腎臓が痛み始めた。まだ残金を受け取っていなかったため、Ranaさんは催促するとともに警察に通報。捜査の結果、巧妙な詐欺事件が発覚した。

 新聞各紙の報道によると、Ranaさんの事件に関連して医師1人と警察官1人を含む4人が身柄を拘束されて17日に裁判所に出廷、警察は残る2人の行方を追っている。うち1人は警察官だという。

 パキスタン政府によると、Ranaさんのようなケースは珍しいものではなく、「最貧層」を狙った違法臓器取引の取り締まりを目的として、前週に新法「Transplantation of Human Organs and Tissues Bill、 2007」が制定された。

 パキスタンにはこれまで、臓器移植を目的とした患者が世界各国から訪れていた。同国では提供者が現れるのを待つ必要もなく、自国に比べて臓器移植手術が格安で受けられるためだ。

 しかし、新法ではパキスタン人が外国人に臓器を販売することを禁止。また、許可なくヒトの臓器を売買した者に対し禁固10年と多額の罰金を科すよう定められている。

 腎臓の売買は増えており、パキスタン国内での売買額は年間10億ルピー(約19億円)に上るという。同国は「臓器のスーパーマーケット」として知られるようになり、「失業者が氷に包まれて目覚めると、手術跡があって臓器が盗まれたことに気づいた」といった話がまことしやかに語られていた。

 被害に遭うのは、実質的に奴隷のような状態で働かされている人々。借金を払って自由の身になりたいとの思いから臓器を売り渡すケースがほとんどだという。

 RanaさんはThe Newsの取材に対し、イスラマバードに来たときは2年間も失業していて餓死寸前の状態で、床屋で腎臓を売れば家族を養えると持ち掛けられたと打ち明けた。しかし前金の10万ルピーでさえも、手術後に病院を出る際に仲介者3人が待ち構えていて、あとで全額を払うからと言って持ち去ってしまったという。

 Dawn紙の18日の報道によると、パキスタンでは年間2000件の腎臓移植が行われ、うち500件は患者が国立病院で家族から生体腎移植を受けるケース。残る1500件が私立病院で他人の臓器を移植されるケースで、このうち約900から1000件を中東、北米、欧州、南アジアの20か国以上から来る患者が占めているという。(c)AFP/Lynne O’Donnell