世界のインフラ老朽化に警鐘、笹子トンネル崩落事故
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【12月10日 AFP】9人が死亡した中央自動車道・笹子トンネル(Sasago Tunnel)の崩落事故は、老朽化したインフラを早急に更新する必要に迫られている先進諸国への警鐘として捉えるべきだと専門家らは指摘している。現状を維持するだけでも世界規模で数兆ドルかかるが、昨今の緊縮財政も相まって、不可欠な改修の優先順位は危険なまでに大きく後退しているのが現状だ。
第一生命経済研究所の永濱利廣(Toshihiro Nagahama)主席エコノミストによると、保守作業は緊急性が分かりにくいため、なおざりにされがちだという。
2日に起きた笹子トンネルの事故原因はまだ明らかになっていないが、初動捜査の段階で、開通から35年が経過したトンネルの天井板接合部の劣化が指摘されている。政府は全国の同じ構造のトンネルの緊急検査を命じ、警察は過失致死傷容疑での立件を視野に入れた捜査を開始した。
この事故を受けて、第二次世界大戦後にインフラ整備ラッシュを迎えた世界有数の工業国・日本には緊張が走った。国土交通省によれば、国内の主要な橋15万5000本のうち少なくとも8%は完成から既に50年以上が経過している。2030年までには半数がそうなる。
同省の試算では、現在のインフラをただ維持するためだけに次の50年間で190兆円が必要だという。しかし債務が国内総生産(GDP)の2倍を超え、縮小する労働力ではその返済が容易ではない中、新たな財源を見いだすのは困難だ。
■先進国で老朽化進む公共設備
財源不足から事故が生じた例は世界各地にある。
米ニューヨーク(New York)で2006年夏に起きた大停電は、送電網の保守管理が不適切だったことが原因とされた。07年にはミネアポリス(Minneapolis)で高さ33メートル・8斜線の橋が崩落し、13人が死亡、145人が負傷した。オーストラリアでは09年に切れた電線から発生した山火事で173人が死亡した。
米国土木学会(American Society of Civil Engineers)では、公共設備の劣化を防ぐためだけに今後10年間に2兆2000億ドル(約180兆円)が必要と見積もっているが、現段階でも米政府の歳出計画ではその半額に満たない。しかも「財政の崖」を回避するために予算はさらに削減されるだろう。
豪州のインフラ関連ロビー団体「オーストラリア・エンジニア協会(Engineers Australia)」は、広大な国土を長年にわたって放置した結果、7000億豪ドル(約60兆3700億円)のインフラ投資不足に陥っていると指摘している。
■「現状維持を選択する余地はない」
豪政府の諮問機関「インフラストラクチャー・オーストラリア(Infrastructure Australia)」のロッド・エディントン(Rod Eddington)委員長は、たとえ改修に巨額がかかるとしても、現状維持を選択する余地はないと警告する。今年6月の報告書では「十分に手を尽くさなければ経済機会を逸し、生活水準が低下する」と記している。
英ロンドン(London)では、市内とヒースロー空港(Heathrow Airport)を結ぶ主要幹線道路の1つが緊急工事のため2011年12月まで5か月にわたって通行止めを余儀なくされ、今年の五輪開催に向けた交通計画に混乱が生じた。1960年代に造られた高架道路が漏水により劣化したことが原因だった。
英シェフィールド大学(University of Sheffield)の土木構造工学専門家、アレクサンダー・パビッチ(Aleksandar Pavic)教授は、19世紀に作られたものもあるロンドンの公共設備が突然崩落する事態を目の当たりにしないためには、定期点検しか手はないと強調する。「インフラが今どのような状態にあるのか、われわれは把握していない。だから何かが崩壊した時、意表を突かれるのだ」。同教授は近代的な監視システムによって現状把握が改善される可能性にも触れた。
第一生命経済研究所の永濱氏は、なされるべき改修と維持に十分な資金が注ぎ込まれるためには、強力な政治的意思が必要だと指摘。笹子トンネル事故がこの問題に対する世論の意識を高め、当局に対応を迫るきっかけになるかもしれないと語っている。(c)AFP/Hiroshi Hiyama
第一生命経済研究所の永濱利廣(Toshihiro Nagahama)主席エコノミストによると、保守作業は緊急性が分かりにくいため、なおざりにされがちだという。
2日に起きた笹子トンネルの事故原因はまだ明らかになっていないが、初動捜査の段階で、開通から35年が経過したトンネルの天井板接合部の劣化が指摘されている。政府は全国の同じ構造のトンネルの緊急検査を命じ、警察は過失致死傷容疑での立件を視野に入れた捜査を開始した。
この事故を受けて、第二次世界大戦後にインフラ整備ラッシュを迎えた世界有数の工業国・日本には緊張が走った。国土交通省によれば、国内の主要な橋15万5000本のうち少なくとも8%は完成から既に50年以上が経過している。2030年までには半数がそうなる。
同省の試算では、現在のインフラをただ維持するためだけに次の50年間で190兆円が必要だという。しかし債務が国内総生産(GDP)の2倍を超え、縮小する労働力ではその返済が容易ではない中、新たな財源を見いだすのは困難だ。
■先進国で老朽化進む公共設備
財源不足から事故が生じた例は世界各地にある。
米ニューヨーク(New York)で2006年夏に起きた大停電は、送電網の保守管理が不適切だったことが原因とされた。07年にはミネアポリス(Minneapolis)で高さ33メートル・8斜線の橋が崩落し、13人が死亡、145人が負傷した。オーストラリアでは09年に切れた電線から発生した山火事で173人が死亡した。
米国土木学会(American Society of Civil Engineers)では、公共設備の劣化を防ぐためだけに今後10年間に2兆2000億ドル(約180兆円)が必要と見積もっているが、現段階でも米政府の歳出計画ではその半額に満たない。しかも「財政の崖」を回避するために予算はさらに削減されるだろう。
豪州のインフラ関連ロビー団体「オーストラリア・エンジニア協会(Engineers Australia)」は、広大な国土を長年にわたって放置した結果、7000億豪ドル(約60兆3700億円)のインフラ投資不足に陥っていると指摘している。
■「現状維持を選択する余地はない」
豪政府の諮問機関「インフラストラクチャー・オーストラリア(Infrastructure Australia)」のロッド・エディントン(Rod Eddington)委員長は、たとえ改修に巨額がかかるとしても、現状維持を選択する余地はないと警告する。今年6月の報告書では「十分に手を尽くさなければ経済機会を逸し、生活水準が低下する」と記している。
英ロンドン(London)では、市内とヒースロー空港(Heathrow Airport)を結ぶ主要幹線道路の1つが緊急工事のため2011年12月まで5か月にわたって通行止めを余儀なくされ、今年の五輪開催に向けた交通計画に混乱が生じた。1960年代に造られた高架道路が漏水により劣化したことが原因だった。
英シェフィールド大学(University of Sheffield)の土木構造工学専門家、アレクサンダー・パビッチ(Aleksandar Pavic)教授は、19世紀に作られたものもあるロンドンの公共設備が突然崩落する事態を目の当たりにしないためには、定期点検しか手はないと強調する。「インフラが今どのような状態にあるのか、われわれは把握していない。だから何かが崩壊した時、意表を突かれるのだ」。同教授は近代的な監視システムによって現状把握が改善される可能性にも触れた。
第一生命経済研究所の永濱氏は、なされるべき改修と維持に十分な資金が注ぎ込まれるためには、強力な政治的意思が必要だと指摘。笹子トンネル事故がこの問題に対する世論の意識を高め、当局に対応を迫るきっかけになるかもしれないと語っている。(c)AFP/Hiroshi Hiyama