【12月5日 AFP】カメラマンはなぜ被害者を助けようとしなかったのか。そして新聞社はなぜこの写真を掲載したのか──地下鉄の線路に落ち、近付いてくる電車に今にもひかれそうにな男性の写真を一面に掲載した米紙ニューヨーク・ポスト(New York Post)が批判されている。

 警察によると、被害者の男性は3日、ニューヨーク・マンハッタン(Manhattan)の地下鉄タイムズ・スクエア(Times Square)駅で騒いでいた男とけんかになり、線路に転落。ふらふらと立ち上がって線路から離れようとしたが間に合わず、大勢の利用客の目前で列車にはねられて死亡した。

 4日付のポスト紙は、現場に居合わせた同紙の契約カメラマンが撮影した写真に「この男性はまさに死のうとしている」という見出しをつけて一面ぶちぬきで掲載した。また、一面以降の見開きページでも、別の2枚の写真を掲載した。

 だが、同紙はこの一件について伝えたニュース映像の中で、「被害者を自分1人で引き上げるのは体力的に無理だったため、カメラマンは自分が手にしていた唯一の手段を使った。地下鉄の車掌に止まれと合図するために、カメラのフラッシュをたいた」のであって、一連の写真はカメラマンが被害者を助けようとしたときにたまたま撮影されたという態度を取った。

■「運転手に知らせるためにフラッシュをたいた」

 そのカメラマン、R. ウマル・アバシ(R. Umar Abbasi)氏はポスト紙上で、「運転士がカメラのフラッシュに気付いてくれることを願いながら、急ぎに急いだ。そして、何度もシャッターを切った」と説明。カメラを使ったのは、主に運転士に警告するためだったと話した。

 しかし、その主張で人びとを説得することはできなかったようだ。マイクロブログのツイッター(Twitter)では、「車掌の注意を引くためにカメラのフラッシュを使ったというが、ちょっと話が出来すぎなのではないか」といったコメントが相次いだ。

 扇情的な編集方針を掲げるポスト紙は、ネット上で何時間にもわたって集中砲火を受た後に自社のツイッターのアカウントで「衝撃的な動画と写真!タイムズ・スクエア駅で子持ちの男性が錯乱した男に線路に突き落とされ死亡」とツイートするなど、謝罪する姿勢を見せていない。

 一方、騒動が大きくなったことを受け、「印刷するに値するニュース」だけを掲載するという方針を取る米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)も、ネット版のトップに恐ろしい写真を掲載したポスト紙の1面を掲載して読者の意見を募集した。

 批判が集中したポスト紙のコメントコーナーに比べればタイムズ紙での議論は礼儀にかなってはいたが、集まった意見は同様に手厳しいものだった。世論を一層あおったとしてタイムズ紙を批判する声もあった。

 警察の4日の発表によると、警察は犯罪の可能性もあるこの一件の「容疑者」を勾留しているが、まだ告発はしていない。(c)AFP/Sebastian Smith