福島からの避難住民、生活不安のまま迎える1年目
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【3月8日 AFP】東日本大震災で起きた東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所の事故のために家や商売を捨て、避難を余儀なくされた多数の住民たちは、あれから1年が経つ今も帰宅できず、被害の補償を求めて戦うことを強いられながら依然、生活に不安を抱えている。
■放射能に汚染された農地の補償は
福島第1原発から吐き出された放射能による汚染地域が存在する限り、一部の避難住民は今後何年も家に戻ることができないだろう。何十年も、という人たちもいよう。いくつかの町は住むには危険すぎるという理由で、地図上に名前があるだけの無人の町と化し事実上、歴史のかなたへ消えて行ってしまうかもしれない。
1年になろうとする今も、福島第1原発の事業者である東電からの賠償はまだほとんどの人が受けていない。日本の政治機構の深部にまで触手が届く東電の巨大な力の前に、賠償を求めて立ち向かっている避難住民たちはまるで「象の足に噛み付くちっぽけな蟻」のようだと無力感を覚えている。
「俺らは生きている。死んでない」と語るコメ農家の男性(70)は今も避難所暮らしだ。「30年、40年経過したら帰れるという話もあるが、その年月は生活していかないといけない。どうすればいいのかね?」。まったく価値を失ってしまった男性の畑は原発から4キロの場所で放置されている。
原子力損害賠償紛争解決センターによれば、昨年9月の開設以来、申し立てのあった1000件の損害賠償のうち、2月末時点で解決したのはわずか13件だけだ。一方、何らかの補償を東電に求める人は200万人近くに上るとみられている。同センターの野山宏(Hiroshi Noyama)室長は、賠償交渉に対する東電側の姿勢が「想定よりはるかに消極的」だと指摘する。
被害者側の弁護士らによると、価値がなくなってしまった立入禁止区域内の土地や住宅などの資産に対する賠償に、東電側は腰が重い。
同社は現在、原発事故で避難した住民の 「精神的損害」に対する賠償の仮払いとして月額最高12万円を支払っているが、支払いの継続を求めるには、非常に長く分かりにくい申請書に書き込んで3か月ごとに提出することを被災住民たちに課している。
■補償に及び腰な東電
福島第1原発がある福島県双葉町からの避難住民を支援する弁護士の1人、青木努(Tsutomu Aoki)氏は、賠償が支払われる速さが十分でないと批判する。 「避難している人は今、金があることは必要だ。今の金がいつまで続くかが重要で、東電は被災者の生活状況に対する配慮が全くない」
東電は、福島県内の住民150万人に損害賠償として、妊婦と子どもは1人当たり40万円、自主避難した場合はその費用として20万円、それ以外の人へは8万円を一律払うと発表した。これは2011年末までの賠償で、その後についてはまだ未定だが、東電側は支払いを受ける人たちに、同じ時期に関するさらなる補償を求めないよう同意させたがっている。
馬奈木厳太郎(Izutaro Managi)弁護士は、放射能の影響が明らかになるには何年もかかるのに、こうした形で賠償を終わらせてしまう東電のやり方は公正を欠くと非難する。「事故はまだ収束していない。被害者の方にしてみれば、自分たちが被った被害の全貌がまったく明らかにされていない」
東電側は申請書を扱う人員を3000人から1万人に増やして、未処理の申請をさばこうとしていると言う。同社広報は 「時間がかかっているのは申し訳ないことですが、間違いのないように誠心誠意対応しています」と述べている。
■失ったものは、あまりに大きい
しかし、原発から西へ約60キロの郡山で有機農業を営んでいる成田守(Mamoru Narita)さん(61)は、補償にまったく納得できない。原発事故で失ったものの大きさに比べたら、8万円は上っ面をなでるにすぎない額だ。「有機栽培は化学肥料も殺虫剤も使わず、食の安全にも配慮し、環境にも貢献できるということでやってきた。その環境そのものが汚染された。その慰め料、その金額がそれで、農業者がそれでいいのか?」
夫と2歳の息子と横浜へ避難した磯海未亜(Mia Isogai)さん(31)は、家計のやりくりが大変で、もっと補償がなければ破産してしまうと訴える。「食料と光熱費は私のアルバイト代から払っていますが、家賃は払えません」。磯海さんの家族は3人で計76万円の賠償を受ける予定だが、76万円とは、日本の平均月給の3か月分でしかない。
「今の大家さんはいい人で、家賃をただにしてくれていますが、それもこの夏で終わってしまいます。そうしたら、どうすればいいのか分かりません」
(c)AFP/Harumi Ozawa
【関連記事】福島第1原発の現場から ― 拭えぬ安全への不安
■放射能に汚染された農地の補償は
福島第1原発から吐き出された放射能による汚染地域が存在する限り、一部の避難住民は今後何年も家に戻ることができないだろう。何十年も、という人たちもいよう。いくつかの町は住むには危険すぎるという理由で、地図上に名前があるだけの無人の町と化し事実上、歴史のかなたへ消えて行ってしまうかもしれない。
1年になろうとする今も、福島第1原発の事業者である東電からの賠償はまだほとんどの人が受けていない。日本の政治機構の深部にまで触手が届く東電の巨大な力の前に、賠償を求めて立ち向かっている避難住民たちはまるで「象の足に噛み付くちっぽけな蟻」のようだと無力感を覚えている。
「俺らは生きている。死んでない」と語るコメ農家の男性(70)は今も避難所暮らしだ。「30年、40年経過したら帰れるという話もあるが、その年月は生活していかないといけない。どうすればいいのかね?」。まったく価値を失ってしまった男性の畑は原発から4キロの場所で放置されている。
原子力損害賠償紛争解決センターによれば、昨年9月の開設以来、申し立てのあった1000件の損害賠償のうち、2月末時点で解決したのはわずか13件だけだ。一方、何らかの補償を東電に求める人は200万人近くに上るとみられている。同センターの野山宏(Hiroshi Noyama)室長は、賠償交渉に対する東電側の姿勢が「想定よりはるかに消極的」だと指摘する。
被害者側の弁護士らによると、価値がなくなってしまった立入禁止区域内の土地や住宅などの資産に対する賠償に、東電側は腰が重い。
同社は現在、原発事故で避難した住民の 「精神的損害」に対する賠償の仮払いとして月額最高12万円を支払っているが、支払いの継続を求めるには、非常に長く分かりにくい申請書に書き込んで3か月ごとに提出することを被災住民たちに課している。
■補償に及び腰な東電
福島第1原発がある福島県双葉町からの避難住民を支援する弁護士の1人、青木努(Tsutomu Aoki)氏は、賠償が支払われる速さが十分でないと批判する。 「避難している人は今、金があることは必要だ。今の金がいつまで続くかが重要で、東電は被災者の生活状況に対する配慮が全くない」
東電は、福島県内の住民150万人に損害賠償として、妊婦と子どもは1人当たり40万円、自主避難した場合はその費用として20万円、それ以外の人へは8万円を一律払うと発表した。これは2011年末までの賠償で、その後についてはまだ未定だが、東電側は支払いを受ける人たちに、同じ時期に関するさらなる補償を求めないよう同意させたがっている。
馬奈木厳太郎(Izutaro Managi)弁護士は、放射能の影響が明らかになるには何年もかかるのに、こうした形で賠償を終わらせてしまう東電のやり方は公正を欠くと非難する。「事故はまだ収束していない。被害者の方にしてみれば、自分たちが被った被害の全貌がまったく明らかにされていない」
東電側は申請書を扱う人員を3000人から1万人に増やして、未処理の申請をさばこうとしていると言う。同社広報は 「時間がかかっているのは申し訳ないことですが、間違いのないように誠心誠意対応しています」と述べている。
■失ったものは、あまりに大きい
しかし、原発から西へ約60キロの郡山で有機農業を営んでいる成田守(Mamoru Narita)さん(61)は、補償にまったく納得できない。原発事故で失ったものの大きさに比べたら、8万円は上っ面をなでるにすぎない額だ。「有機栽培は化学肥料も殺虫剤も使わず、食の安全にも配慮し、環境にも貢献できるということでやってきた。その環境そのものが汚染された。その慰め料、その金額がそれで、農業者がそれでいいのか?」
夫と2歳の息子と横浜へ避難した磯海未亜(Mia Isogai)さん(31)は、家計のやりくりが大変で、もっと補償がなければ破産してしまうと訴える。「食料と光熱費は私のアルバイト代から払っていますが、家賃は払えません」。磯海さんの家族は3人で計76万円の賠償を受ける予定だが、76万円とは、日本の平均月給の3か月分でしかない。
「今の大家さんはいい人で、家賃をただにしてくれていますが、それもこの夏で終わってしまいます。そうしたら、どうすればいいのか分かりません」
(c)AFP/Harumi Ozawa
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