【10月13日 AFP】チリ北部のサンホセ(San Jose)鉱山の落盤事故は13日、ようやく33人の作業員たちが次々と地上に引き上げられている。だが心理学者たちは、岩石だらけの地下の暗闇で69日間も過ごすことを強いられた作業員たちにとって、以前の生活に戻ることは容易ではないと指摘している。

 チリ政府は、一躍国家の英雄となった作業員たちに救出後最低6か月間の心理的サポートを提供すると約束している。家族との感動的な再会を果たした作業員たちを待っているのは、短期的ながらもセレブ扱いされるという新しい体験だ。

 救出作業の支援のため9月から現地入りしている米航空宇宙局(NASA)の専門家は、救出された作業員たちが英雄扱いされるとメディアと社会の両方から大きなプレッシャーを受けるだろうと懸念する。実際、作業員たちが地下から引き上げられている現場には、世界中から数百人もの報道陣が殺到した。

 チリ・カトリック大(Chile's Catholic University)の社会学者、レネ・リオス(Rene Rios)氏も、「メディアは彼らを押しつぶすだろう。テレビ局からのオファーが殺到し、作業員の中にはスター気取りになる者も出てくるかもしれない。しかしそうした状況は数か月しか続かない」と危ぐする。 

 カトリック大学の心理学者、エンリケ・チア(Enrique Chia)氏も、英雄扱いや地下体験でお金が手に入る状況はじきに終わることを作業員たちも悟るだろうと話している。

 チア氏は、作業員たちが普通の生活に適応していく過程は容易ではなくリスクもあると指摘する。作業員たちは生存が確認されるまでの17日間、外部との接触が完全に絶たれていた。このような過酷な体験で精神的に強くなる人もいれば、打撃を受ける人もいるが、チア氏は「作業員たちの『事故前の生活』は終わった」と語り、33人全員に何らかの変化があるだろうと述べた。

 チリ大学(Chile University)の心理学者、マルガリータ・ロウバ(Margarita Loubat)氏は、「人は死に直面すると自分は何者なのか、人生でやり残したことは何かなどと考え始める。この思いはその後の人生にもつきまとうものだ」と説明した。(c)AFP