【7月17日 AFP】北京(Beijing)の中心部に、毛沢東(Mao Zedong)、鄧小平(Deng Xiaoping)、胡錦涛(Hu Jintao)など、歴代政治家の顔写真を壁に張り巡らした小さな一軒家がある。五輪旗も掲げられている。家の主たちは、当局からの立ち退き命令に抗議をしているのだ。

 トレンディーな后海(Houhai)地区にあるこの家に住むのは、総勢14人のYuさん一家だ。そのうちの1人、Yu Pingjuさんは、「今わたしたちにできることはこれだけです。中国の善良な指導者たちに、わたしたちの権利を守るよう訴えているのです」と話す。

 胡主席の顔写真には、「中国共産党を率いる胡同志とともに、調和のある社会と平和な五輪を実現しよう」とのスローガンが書かれている。

 北京五輪を来月に控えているだけに、この家族のささやかな抵抗は外国メディアの注目を集めている。中国の繁栄から取り残された人々が強大な権力に立ち向かうシンボルと受け止めるむきもある。

 Yuさんが五輪旗を掲げているのは立ち退き命令と五輪開催の関係を示すためだが、こうした行動は政府の逆鱗(げきりん)に触れるリスクを伴う。 中国共産党はこれまでに、人権にかかわるいくつかのケースで、そういった行動をとらないよう警告を発している。

 60年ほど前から家の敷地内に小さな食料品店を営み、果物や焼き栗などを売って生計を立ててきたYuさん一家は、ある日突然立ち退きを命じられた。その補償額は微々たるものだった。北京市政府は立ち退き命令の理由を「家屋が倒壊する恐れがあるため」と説明したというが、立ち退き命令の根拠となる法的な文書は提示しなかったという。

 北京の一等地では、ここ最近の不動産ブームに乗って不動産売買が過熱している。地元住民は政府が開発業者と結託して暴利をむさぼろうとしていると非難する。政府による土地や家屋の没収は、いぜんとして、中国の社会不安の主な原因の1つになっている。(c)AFP